8050問題が迫る――老後&中年子どもの同居を支える“予防的住まい”で家族を守る | COLLINO(コリーノ)インテリア

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8050問題が迫る――老後&中年子どもの同居を支える“予防的住まい”で家族を守る

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定年後に“家が戦場”になる理由と、妻が笑顔を取り戻す住まい改革ガイド

老後&中年子どもの同居が増えている

首都圏郊外で家賃12万円の2LDKに暮らすAさん夫妻(80代)は、自営業だった過去があり、年金収入は夫婦合わせて月20万円ほど。そこに長男(40代)の手取り17万円を合わせても月30万円程度で、生活費や家賃を払えば貯金する余裕はほとんどありません。
実はこのように「80代の親と50代前後の子どもが同居し、経済的にも自立しきれていない」状況は、“8050問題”として社会的にも深刻化しつつあります。Aさん一家の場合も、長男が未婚で近所からの目が冷ややかなうえ、親子のギスギスした空気が家庭内に漂っていました。しかし、経済的にも物理的にも別居は難しい。
この先「老々介護」に近い形で息子のサポートを受けるかもしれない……そんな不安を抱えたAさん夫妻は、住まいのコンサルタント事務所に相談。限られた収入と空間でも、“予防的な意味合い”の部屋づくり
を進めることで、健康と家族関係の円満を守ろうとしています。

今回は、その事例を通じて、8050問題にも対応しうる家づくりのヒントを探ります。


いま増える「8050問題」とは?

  • 高齢の親(80代)と、50代前後の未婚・不安定就労の子ども
    かつて自営業や非正規雇用で思うように貯蓄ができなかった子ども世代が、独立を果たせないまま親と同居を続けるケースが増加。
  • 家計が逼迫し、老々介護リスクも高まる
    月々の年金と子どもの手取りを合わせても十分な家計にならず、さらに親が要介護状態になれば子どもに負担が集中する。「働かねばならない」「介護しなければならない」の板挟みが生まれやすい。

Aさん一家のように、家族計3人で暮らしていても、経済的に苦しく、外からの視線も気にせざるをえない状況は少なくありません。しかし、住まいの環境を整えることで、老親と中年子どもが“お互いに暮らしやすい空間”を実現し、将来の介護負担も軽減できる可能性があるのです。


住まいのコンサルタントが提案した“予防的住まい”のポイント

相談の焦点

  • 高齢者(80代夫婦)の健康リスクを下げ、将来の介護を見据えたバリアフリー化
  • 中年の息子(40代)のプライバシーを確保し、親子の衝突を減らすレイアウト
  • 家賃12万円、家計月30万円程度でも実行可能な“仕組み”

(1) 部屋割りとLDKの再設計

  • LDKは親子共有の場としつつ、家具を減らして“通路幅”を確保
    シニアの転倒リスクを減らすため、ソファやテーブルをコンパクトに切り替え、壁面や吊り下げ式収納を活用する。将来、車いすや歩行器が必要になっても動きやすい動線を考慮する。
  • 2つの個室は“夫婦の寝室+息子の個室”を明確化
    親が要介護になる可能性も考え、夫婦の寝室をトイレや玄関に近い部屋へ移動。その他の部屋は息子の部屋にし居場所もしっかり確保することで、リビング滞在時間が必要以上に重ならず“互いのストレス”を緩和。

(2) バリアフリー&安全対策

  • 小規模リフォームで段差解消・手すり設置を検討
    賃貸物件でも管理会社の許可を得られれば、床材の貼り替えや簡易的なスロープ設置、手すりの後付けが可能な場合がある。
  • 家具の固定&高さを抑える
    タンスや棚を管理会社の許可を得て壁固定し、地震や転倒によるケガを防ぐ。年齢的に高い場所の収納は使いにくいため、息子の手が届く位置に負担が集中しないよう“お互いが良く使うものを取り出しやすい高さ”に配置。

(3) 家事・家計負担の“見える化”で円満に

  • 収入と支出をリストアップし、家賃や光熱費の割合をシェア
    「誰がどのくらい出すのか」が曖昧だと不満や衝突が生まれる。視覚化して共有すると、息子も親も実情を理解しやすい。
  • 家事分担のルール作り
    高齢者が無理をしすぎず、息子が「仕事が忙しい」だけで逃げないよう、掃除や洗濯、ゴミ出しなどを役割分担し、ホワイトボードなどで進捗を見える化。

施策後の変化:Aさん一家が得た安心と絆

● 転倒リスク減、老夫婦の気持ちが前向きに

家具配置を見直すだけで、室内でつまずきやすかった段差や出っ張りが大幅に減少。Aさん夫妻は「これならあと何年も自分たちで動ける」と自信をつけ、ウォーキングや軽い体操を日課に取り入れるようになった。

● 息子の“居場所”ができ、無用な衝突が激減

長男は自分の個室を得ることで、リビングで父母と顔を合わせる時間をある程度コントロールできるように。以前は食事中やテレビのチャンネル争いでケンカが頻発していたが、“適度な距離”を保てるようになったおかげで衝突が激減したという。

● 介護や将来設計を“話し合える”空気に

家賃や生活費の内訳、将来の費用見通しを“家計ボード”で共有すると、「どうしたらお金を貯められるか」「親が介護度が進んだら息子はどう動くか」というテーマも自然に話題に上がるように。親子が同じテーブルで将来設計を考える時間を持てるようになった。


まとめ:8050問題こそ“住まい”を整え、家族の未来を描くチャンス

  • 同居をやめられないなら、住まいのレイアウトや仕組みを最大限活かす
    バリアフリーや家具配置の工夫で、高齢者が安全に暮らし、中年子どもがプライバシーを確保できる空間を生み出す。
  • 家計と家事を見える化し、衝突を未然に防ぐ
    経済的に厳しいからこそ、費用負担や家事分担の曖昧さは大きなストレス要因に。
  • “予防的住まい”で老後と将来介護への不安を軽減
    事前に部屋の使い方や手すり設置などを考えておけば、急な体調変化や介護が必要になった際も対応しやすくなる。

8050問題は決して他人事ではなく、社会全体が直面する課題です。家族の事情や経済状況に応じて、暮らしの土台となる“住まい”を今のうちから整えておくことが、長期的な安心と家族の絆を守る大切なカギとなります。
Aさん一家の事例が示すように、限られた収入や空間でも工夫次第で「健康と家族の笑顔」を支える住まいは実現可能。もし同様の悩みを抱えているのなら、ぜひ住まいの専門家や公的相談窓口を活用し、早めの“予防的住まいづくり”に着手してみてはいかがでしょうか。

この記事の著者

しかま のりこ

一級建築士/模様替えアドバイザー/教育建築士
東京都出身、日本女子大学在学中に英国留学、インテリアデザインを学ぶ。ゼネコン・確認検査機関では住宅の設計・審査・検査・インテリアコーディネートまで、 5,000件以上 の実務をこなす。 “住まいを診断”する検査員としての厳しい目と、 暮らしを心地よく整える家具配置の視点を持つプロ。デザインした家具はキッズデザイン賞を受賞。著書に「狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール」「狭い家でも子どもと快適に暮らすための部屋づくりのルール」(彩図社)がある。

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