片づけられないのは意志の弱さではなく“住まいのせい”だった|行動心理と空間デザインの関係

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片づけられないのは、意志の弱さではなく“住まいのせい”だった――行動心理と空間デザインから考える「散らかり」のメカニズム

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片づけられないのは意志の弱さではなく住まいのせいだということを解説した図

なぜ、片づけが続かないのか?

「片づけようと思っても、すぐにリバウンドしてしまう」
「やる気はあるのに、気づけば散らかっている」
そんな経験はありませんか?

多くの人は、「自分の意志が弱い」と思い込みます。
けれど実際には、人の行動は意志よりも“環境”に左右されることが、行動心理学の研究で明らかになっています。

私たちの脳は、省エネで動くようにできています。
たとえば、扉を開けて棚にしまうよりも、ただ“置くだけ”で済む方を選ぶ。
高い位置にある収納より、手の届く範囲のカゴに入れる方がラク。
つまり、“片づけにくい環境=行動の摩擦が大きい空間”なのです。

この「摩擦」が積み重なると、脳は無意識に「面倒だ」と判断し、行動をストップさせます。
そして「片づけられない自分」を責める――その悪循環が、散らかりを生む構造なのです。


脳が「片づけたくない」と感じる空間のしくみ

脳科学では、行動を起こすには“認知コスト”がかかるとされています。
認知コストとは、「何をどうすればいいか」を考える負担のこと。

たとえば、

  • 棚の奥に何が入っているかわからない
  • モノの定位置があいまいで迷う
  • 収納を開けるたびに中が混乱している

こうした状況では、脳が「まず整理しなきゃ」「どこに戻そう」と考え続け、疲れてしまうのです。
人は疲れを感じると、省エネモードに切り替わり、“行動しない”という選択を取ります。

つまり「片づけたいのに片づけられない」状態は、怠けではなく、
脳が疲れて動けなくなっているサインとも言えるのです。


散らかった部屋が心に与える影響

一方、部屋の状態は心にも影響を及ぼします。
米・UCLAの研究では、散らかった環境に長時間いると、ストレスホルモン「コルチゾール」が上昇することが分かっています。

モノが多い部屋では、視覚的な情報があふれ、脳が常に処理を続けています。
これを「認知的疲労(decision fatigue)」と呼び、知らず知らずのうちに集中力や判断力を奪っていきます。

また、「どこに何があるかわからない」「探し物が見つからない」といった小さなストレスも無視できません。
それらは“マイクロストレス”として積み重なり、「自分はダメだ」「どうせまた散らかる」といった自己否定感へとつながります。

逆に、整った空間では“自己効力感”が高まり、
「やればできる」「次の行動に移れる」という前向きな気持ちが生まれます。
片づいた部屋は単なる見た目の問題ではなく、心を整える心理的なインフラなのです。


片づけを“続けたくなる”家具の置き方

では、どうすれば片づけが自然に続くのでしょうか。
鍵となるのが、「行動の摩擦を減らす」家具配置です。

1つの目安は、「ワンアクション収納」。
引き出しを開ける、扉を押すといった“ひと手間”をなくし、
“置くだけ・掛けるだけ”で完結する仕組みにします。
例えば、リビングのカゴ収納やオープンシェルフなどは、
「すぐ戻せる」「見える安心」が得られる代表的な形です。

また、家具の高さも重要です。
目線の高さに“よく使うモノ”を、手の届く範囲に“日常品”を配置するだけで、行動効率が大きく変わります。
人は無意識に“見える場所のもの”を優先して使うため、視認性を高めることは、自然な片づけ行動を誘発します。

さらに、「使う場所の近くに収納を置く」ことも大切です。
おもちゃは遊ぶ場所のそばに、郵便物は玄関脇に。
行動の流れと収納位置が一致すると、片づけは“行動の延長”になります。


摩擦のない空間が、心の余裕を生む

私たちは、毎日の暮らしの中で無数の“小さな摩擦”を抱えています。
その一つひとつが積み重なると、気づかぬうちに心をすり減らしてしまう。
しかし、収納の高さや動線、家具の位置を少し変えるだけで、その摩擦は驚くほど減らすことができます。

片づけとは、意志の問題ではなく、設計の問題。
“片づけられない”のではなく、“片づけにくい空間に住んでいるだけ”なのです。

散らかりの構造を見直すことは、
「自分を責める暮らし」から「自分を肯定できる暮らし」への第一歩です。
そして、心地よい空間とは――人の行動をやさしく導く、摩擦のない住まいなのです。


まとめ

片づけられないのは怠けではなく、設計が間違っていたから。
散らかった部屋を責めるのではなく、「行動が自然に続く空間」に整える――
それが、ストレスのない暮らしへの最短ルートです。

COLLINOでは女性一級建築士が、お客様一人ひとりの暮らしに寄り添い、将来を見据えたリフォームや模様替えプランを丁寧に作成いたします。
安心と上質を兼ね備えた住まいづくりを、ぜひご相談ください。

この記事の著者

しかま のりこ

一級建築士/模様替えアドバイザー/教育建築士
東京都出身、日本女子大学在学中に英国留学、インテリアデザインを学ぶ。ゼネコン・確認検査機関では住宅の設計・審査・検査・インテリアコーディネートまで、 5,000件以上 の実務をこなす。 “住まいを診断”する検査員としての厳しい目と、 暮らしを心地よく整える家具配置の視点を持つプロ。デザインした家具はキッズデザイン賞を受賞。著書に「狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール」「狭い家でも子どもと快適に暮らすための部屋づくりのルール」(彩図社)がある。

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