子どものベランダ転落事故はなぜなくならない?手すり110cmでも危険な理由を一級建築士が解説

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手すりは110cmあるのに、なぜ子どもは転落するのか?「ベランダ転落事故」がなくならない理由

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2026年9月15日、東京都北区の集合住宅で、5歳の男の子が11階の自宅ベランダから転落し、死亡するという痛ましい事故が報じられました。

報道によれば、家族が買い物から戻り、荷物を車から複数回に分けて運んでいる間、男の子は室内で待っていたとみられています。事故の詳しい状況については、現在も警視庁が調べている段階です。したがって、今回の事故について「何が原因だったのか」を現時点で断定することはできません。

ただ、一級建築士として住宅を見てきた立場から、どうしてもお伝えしたいことがあります。

それは、

「ベランダに十分な高さの手すりがあるから安心」とは言い切れない

ということです。

そして、子どもの転落事故を考えるとき、私たちは「手すりの高さ」だけではなく、手すりまで子どもがどうやって到達するのかまで考えなければなりません。

「110cmの手すり」があるのに、なぜ転落するのか

建築基準法施行令第126条では、一定の建築物について、屋上広場や2階以上のバルコニー等の周囲に、高さ1.1m以上の手すり壁、柵または金網を設けることが求められています。

110cmという高さを床の上から見れば、小さな子どもが何も使わず簡単にまたいで越えられるような高さではありません。

そのため、大人はつい、

「これだけ高さがあるのだから大丈夫だろう」

と考えてしまいます。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

子どもは、必ずしも床の上から手すりを越えようとするわけではないのです。

例えば、手すりの近くに高さ40cmの椅子があったとします。

建築物としての手すりの高さは110cmのままです。

しかし、その椅子に子どもが立てば、子どもの足元から手すり上端までの高さは、

110cm-40cm=70cm

です。

つまり、

建築上は110cmの手すりでも、子どもから見れば70cmの手すりになってしまう。

私はここが、転落事故を考えるうえで非常に重要なポイントだと考えています。

大人にとっての「家具」が、子どもにとっては「階段」になる

ベランダには、意外なほど多くの「足掛かり」があります。

椅子やテーブルだけではありません。

キャンプ用品、収納ボックス、植木鉢、プランター、ゴミ箱、洗濯かご、物干し用品、エアコンの室外機など、大人が普段何気なく置いているものが、子どもにとっては手すりへ近づくための足場になる可能性があります。

実際、消費者安全調査委員会が、1993年から2024年までに起きた6歳未満の子どもの窓・ベランダからの転落死亡事故134件を調査したところ、ベランダからの転落死亡事故92件のうち、67件で足掛かりが確認されています。

その内訳には、もともとベランダにあったものだけでなく、子ども自身が持ち運んできたもの22件、室外機8件などが含まれています。

これは非常に重要な事実です。

「ベランダに物を置かなければ大丈夫」とも限らない

「だったらベランダに椅子や物を置かなければいい」

と思われるかもしれません。

もちろん、それは非常に重要な対策です。

しかし、子どもは必要であれば、室内から自分で物を運んでくることがあります。

子ども用の椅子。

小さなテーブル。

踏み台。

おもちゃ箱。

収納ケース。

こうしたものは、大人にとっては単なる家具でも、子どもにとっては「高いところへ行くための道具」になることがあります。

消費者庁も、ベランダに椅子やテーブルを手すりから離して置いていたとしても、子どもが移動させて足掛かりにする可能性があるため、使用後は室内に取り込むことなどを呼びかけています。

さらに、実際の死亡事故では、洗濯かご、壁付け物干し、物干し竿、干していた布団、段ボールなど、私たちが通常「危険な足場」とは考えないような物まで関係していたケースが確認されています。

つまり、

「何を置けば危険か」を大人の感覚だけで判断してはいけない

ということなのです。

室外機は特に注意したい

一級建築士として、特に確認していただきたいものの一つがエアコンの室外機です。

室外機は重いため、椅子のように簡単に片付けることができません。

しかも、天板は比較的平らで、子どもにとっては非常に魅力的な「台」に見える可能性があります。

消費者庁は、室外機を設置する際には、可能であれば手すりから60cm以上離す、または上からつるすといった対策を紹介しています。

マンションを購入するときや賃貸住宅を内覧するときも、

「ベランダは広いか」

「日当たりはいいか」

だけでなく、

「室外機から手すりによじ登れる配置になっていないか」

という視点で見ていただきたいと思います。

問題は「高さ」だけではない。手すりの形も重要

もう一つ、建築的に重要なのが手すりの形状です。

高さが110cmあったとしても、水平の横桟など、子どもが足を掛けられる形状になっていれば、手すりそのものが「はしご」のような役割をしてしまう可能性があります。

消費者安全調査委員会の調査でも、ベランダからの転落死亡事故の中に、手すり柵の形状が危険につながったとみられるケースが確認されています。

ですから、住宅の安全性を見るときには、

「手すりが何センチあるか」だけではなく、「子どもが足を掛けられる形になっていないか」

まで見る必要があります。

これは建築基準を満たしているかどうかとは別の、実際の暮らしの安全性の問題です。

転落事故は「一瞬目を離したから起きる」と考えるだけでは防げない

こうした事故が起きるたびに、

「子どもから目を離さなければよかったのではないか」

という話になりがちです。

しかし、それだけでは事故はなくならないと思います。

2025年に公表された消費者安全調査委員会の調査では、134件の死亡事故のうち、事故発生時に保護者が在宅していたケースが65件、不在だったケースが55件、不明14件でした。

さらに同委員会は、保護者が在宅していたかどうかで事故発生状況に有意な差は見られず、子どもが転落直前に身を乗り出した段階で気付いても、転落を止めることは難しいと指摘しています。

これは非常に重い指摘だと思います。

子育てをしていれば、料理をすることもあります。

トイレにも行きます。

洗濯物を取り込みます。

宅配便にも対応します。

買い物の荷物を運ぶこともあります。

24時間、一秒も子どもから目を離さない生活は現実的ではありません。

だからこそ、私は住宅の安全を考える立場として、

「見守ることで防ぐ」のではなく、「目を離した数分間でも事故が起きにくい環境をつくる」

という考え方に変えていく必要があると思っています。

消費者安全調査委員会も、報告書の最後で、「見守りだけに頼る現状からの脱却」を目指し、住まいそのものと住まい方の両面から対策する必要性を指摘しています。

では、家庭では何をすればいいのか

まず今日、ベランダを一度確認してみてください。

重要なのは単に、

「危ない物を置いていない」

と確認することではありません。

子どもの目線になって、手すりまで登るルートがないかを見ることです。

椅子、テーブル、キャンプ用品、収納ボックス、植木鉢、プランター、洗濯かご、室外機。

さらに室内にも目を向けてください。

窓際にベッドやソファ、机などが置かれていないでしょうか。

実際、調査された窓からの転落死亡事故42件では、32件で足掛かりが確認され、ベッド・ソファ15件、机・タンス等14件などが含まれていました。

また、子どもの手が届かない位置に補助錠を設けることも有効な対策です。

つまり、

①外に出られない
②登れる物を置かない
③登りにくい手すりにする

という複数の対策を重ねることが重要です。

一つの対策だけに安全を任せない。

これは建築の安全設計でも非常に大切な考え方です。

110cmは「安全を保証する数字」ではない

私が一級建築士として最もお伝えしたいのはここです。

建築基準を守ることは当然重要です。

しかし、

「建築基準を満たしている」ことと、「あらゆる子どもの行動に対して事故が起きない」ことは同じではありません。

110cmという手すりの高さも、それだけを見れば十分高く感じます。

しかし、その横に40cmの椅子が置かれれば、子どもから見た高さは70cmになります。

室外機があれば、そこに登るかもしれません。

室内から椅子を運んでくるかもしれません。

そして、横桟のある手すりなら、それ自体をよじ登る可能性もあります。

だから住宅を設計する側も、住宅を供給する側も、そして住む側も、

「大人ならどう使うか」ではなく、「子どもならここで何をするだろうか」

という視点を持つ必要があります。

悲しい事故を「不注意」で終わらせないために

6歳未満の子どもが住宅の窓やベランダから転落して死亡した事故は、1993年から2024年までの32年間で134件確認されています。

事故が起きるたびに、

「なぜ目を離したのか」

「なぜそこに物を置いていたのか」

だけで終わらせてしまえば、数年後にも同じニュースを見ることになるかもしれません。

必要なのは、人の注意力だけに安全を委ねることではありません。

子どもが予想外の行動をしても、重大事故まで至りにくい住環境をつくること。

住宅を設計する側にも、住宅設備をつくる側にも、建物を管理する側にも、そして社会全体にも、まだできることがあると思います。

一級建築士として、今回のような事故をきっかけに、ぜひ一度ご自宅の窓とベランダを、「子どもの目線」から見直していただきたいと思います。

今回の事故で亡くなられたお子さまのご冥福を、心よりお祈りいたします。

この記事の著者

しかま のりこ

一級建築士/インテリアデザイナー/一級建築基準適合判定資格者
これまで5,000件以上の住宅に携わり、家具配置・収納・動線・インテリア・リノベーションなど、暮らしやすい住まいづくりを提案。
自身の子育てでは学習環境を工夫・実践し、医師兼漫画家・ゲームプランナーを育てる。この実体験と一級建築士の知見を活かし、子どもの才能や選択肢を広げる住まいの仕組みについて、提案している。

著書に「狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール」「狭い家でも子どもと快適に暮らすための部屋づくりのルール」(彩図社)のほか、デザイン賞の受賞、テレビ・ラジオ出演なども多数。

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